不倫相手から突然、慰謝料を請求されたら、頭が真っ白になるのは当然です。どうすればいいか分からず、不安で夜も眠れないかもしれません。もしかしたら、「このまま無視すれば、いつか連絡が来なくなるだろう」と安易に考えてしまう人もいるでしょう。
しかし、その行動は事態をさらに悪化させる危険な行為です。慰謝料請求を無視し続けることは、問題を解決するどころか、より深刻な事態を招きます。
たとえば、裁判に発展したり、慰謝料が増額されたり、最悪の場合、給与や財産が差し押さえられるリスクがあるのです。
この記事では、不倫慰謝料の請求を無視してはいけない3つの理由と、あなたが取るべき正しい対処法について、分かりやすく解説していきます。
慰謝料請求を無視すると何が問題?3つのリスク
なぜ無視が危険かは、無視された側の気持ちを考えたらわかる
不倫相手の配偶者から突然、慰謝料を請求されたら、頭が真っ白になるのは当然のことです。どうしていいか分からず、とりあえず無視してしまおうと考える人は少なくありません。しかし、その行為は非常に危険です。
無視するということは、相手に「話し合いに応じる気がない」「誠意を見せるつもりがない」という強いメッセージを送ることになるからです。
そもそも、相手からすれば夫や妻の不倫相手と言うのは、明白な加害者です。にもかかわらず、相手方からの連絡を無視するということは「せっかく話し合いで解決しようとしたのに」「誠意を感じない」と感じてしまい、怒りが増幅するのは当然の気持ちでしょう。
このように、不倫相手の配偶者からの慰謝料請求を無視するということは、相手の気持ちを逆なでし、本来、冷静な話し合いで解決できたはずの問題も、無視によって相手の感情を逆なですることで、一気にこじれてしまう可能性があるのです。
このように、感情的な対立を深め、円満な解決の道を自ら閉ざしてしまうのが、無視という行動の最大のリスクなのです。
リスク1.示談交渉が決裂、訴訟に発展にする恐れ
慰謝料の金額や支払い方法について、双方が話し合って合意することを「示談交渉」といいます。不倫慰謝料の多くは、この示談交渉によって解決に至ります。
しかし、あなたが請求を無視し続けると、相手は話し合いのテーブルに着くこと自体を諦めてしまいます。例えば、相手が弁護士を立てて内容証明郵便を送ってきた場合、それはすでに法的な手段を視野に入れている証拠です。それでも無視し続ければ、「和解の意思がない」と判断され、相手は次のステップ、つまり訴訟に踏み切るしかなくなります。
その結果、示談交渉は決裂し、裁判で決着をつけるしかなくなります。
裁判になると、時間も費用もかかります。さらに、不倫の事実が裁判で公にされる可能性もあります。示談交渉であれば、お互いのプライバシーを守りつつ、柔軟な解決策を見出すことも可能です。たとえば、請求金額を減額してもらったり、分割払いにしてもらったりすることもできます。しかし、一度訴訟に発展してしまうと、こうした柔軟な対応は難しくなります。
このように、慰謝料請求を無視する行為は、相手の反感を買い、和解の余地をなくすことにつながると指摘されています。和解の機会を失うことは、あなたにとって大きな損失となります。

リスク2.通知の無視が慰謝料増額の要素になることも
裁判になった場合、慰謝料の金額は、不倫の期間や回数、婚姻期間など、さまざまな要素を考慮して裁判官が判断します。
その際に、あなたの態度も重要な判断材料となります。請求を無視したり、証拠があるにもかかわらず不倫の事実を頑なに否定したりする態度は、「反省していない」「悪質だ」と見なされる可能性があります。
実際、不貞行為の相手が謝罪をしなかったことを理由に、慰謝料を増額して220万円の支払いが認められた判例や、交通事故の慰謝料請求の事件ではありますが、加害者の不誠実性を理由として、慰謝料の増額を認めた判例(東京地判昭和63・1・22判タ661号225頁)も存在しており、不誠実な態度は、相手への精神的な苦痛をさらに深めたと判断され、慰謝料の増額を招くことがあります。
無視という行為が、結果的に自分で自分の首を絞め、より高額な慰謝料を支払う羽目になるのです。
悪質な対応の例 | 結果 |
請求を無視し続ける | 相手の怒りを増幅させる |
不倫の事実を否定する | 反省していないと見なされる |
相手を誹謗中傷する | 悪質性が高いと判断される |

リスク3.給与や財産が差し押さえられる
裁判所から届く訴状や、口頭弁論期日を知らせる呼出状まで無視し続けた場合、恐ろしい事態が待ち受けています。あなたが裁判に出廷しなかった場合、裁判官は相手の主張を全面的に認める判決を下すことがほとんどです。これを「欠席判決」といいます。
欠席判決が確定すると、相手は強制的に慰謝料を回収する「強制執行」という手続きに移ることができます。強制執行では、あなたの給与や預金口座、不動産などが差し押さえられてしまいます。特に給与の差し押さえは、あなたの勤め先に「債権差押命令」という書類が届くため、不倫の事実が会社に知られてしまうという、最悪のシナリオを引き起こします。
最悪の事態を避けるための正しい対処法
不倫慰謝料の請求通知が届いたとき、どうしていいか分からず、感情に任せて無視してしまう人は少なくありません。しかし、その行為は絶対に避けるべきです。ここでは、あなたが冷静に対応し、最悪の事態を回避するための3つのステップを解説します。
ステップ1:通知は絶対に無視しない
通知書を無視したい気持ちは痛いほど分かります。人には、変化のリスクを恐れ、より良い選択肢があったとしても現在の状況を変えようとしない心理的傾向(現状維持バイアス)があり、「何も対応しなければこのまま終わるのではないか」と考えてしまうかもしれません。しかし、そこにメリットはひとつもありませんし、現状は絶対に変わりません。
通知を無視するということは、相手に「話し合いに応じる気がない」というメッセージを送ることになり、相手の怒りをさらに煽るだけです。
その結果、あなたの知らないところで裁判の手続きが進み、あなたが不利な状況に追い込まれてしまいます。無視は解決を遠ざけるだけでなく、事態を悪化させる行為であることを心に留めておきましょう。
ステップ2:内容を精査する
通知を受け取ったら、まずは冷静にその内容を精査しましょう。パニックに陥る前に、以下の点を落ち着いて確認することが重要です。
- 請求の根拠: そもそも、慰謝料を支払う義務があるのか。
- 不倫の事実: 不倫の時期や回数、肉体関係の有無など。
- 請求金額: 提示されている金額は妥当か。
- 証拠の有無: 相手がどのような証拠を提示しているのか。
冷静に事実関係を正確に把握することで、あなたの取るべき道筋が見えてきます。もしも、全く身に覚えのない請求や、相手に配偶者がいたことを知らなかった場合であれば、正々堂々と戦うべきです。
しかし、注意しなければならない点があります。それは、実は不倫をしているにもかかわらず「相手に証拠がないから大丈夫」と高をくくらないことです。
そもそも、示談交渉段階で証拠を開示しないのは、「訴訟になったら裁判所に対して開示するから」であり、証拠はしっかりつかまれているというケースがほとんどなのです。
にもかかわらず、証拠を出さない限り認めないという態度は、相手に不誠実さを感じさせるばかりで、示談交渉を困難にします。
不倫があったかなかったかは、あなたが一番よく知っているはずです。その事実に従い、誠実かつ適切な対応をすることが、重要となるのです。
ステップ3:弁護士に相談する
不倫慰謝料の問題は、法的な知識がなければ適切に対応することは非常に困難です。
ですので通知内容を精査した後は、できるだけ早く弁護士に相談することが、最も安全で確実な方法です。弁護士に依頼すれば、相手との直接的なやり取りを全て任せることができ、精神的な負担が大幅に軽減されます。
また、相手方としても、配偶者の不倫相手と直接話すと感情的になってしまいがちです。しかし、専門家である弁護士が第三者として間に入ることで、冷静に話し合いをしようという気持ちを取り戻してくれる可能性があります。
また、弁護士は法律の専門家として、提示された慰謝料額が妥当か判断し、減額交渉や、交渉が決裂した場合の裁判手続きを代行してくれますので、時間や精神面など様々な負担を軽減するのにも役立ちます。