不倫という裏切り行為を知ったとき、怒りや悲しみで、どうすれば良いか分からなくなりますよね。相手に慰謝料を請求しようと話し合いを始めたものの、交渉がうまくいかず、諦めてしまう人も少なくありません。
しかし、話し合いで解決できないからといって、泣き寝入りする必要は全くありません。そのような状況でも、法的な手段を使えば、きちんと慰謝料を請求できるのです。
ただし、裁判は時間や費用、そして想像以上の精神的な負担を伴います。そのため、裁判のプロセスや、それに伴うリスクを事前に理解しておくことが大切です。
また、自分ひとりで抱え込まず、弁護士の力を借りることで、負担を大きく減らせることを知っておいてください。
不倫慰謝料請求訴訟の一般的な流れを分かりやすく解説
不倫の事実を証明する証拠を徹底的に集める
不倫慰謝料の裁判を起こすためには、不倫の事実を客観的に示す証拠が必要です。口頭でのやり取りだけでは、裁判官は事実関係を認定できません。たとえば、メッセージアプリでの親密なやり取り、二人が一緒に写った写真、ホテルの領収書、探偵の調査報告書などが挙げられます。
これらの証拠は、不倫の悪質性や期間、回数などを証明し、請求する慰謝料額の正当性を裏付ける上で非常に重要となります。
有効な証拠については、不倫の証拠集め 慰謝料請求に必要な証拠の種類の記事で詳しく解説していますので、合わせてごらんください。

訴状の作成と裁判所への提出から裁判開始まで
証拠が集まったら、次に訴状を作成し、裁判を起こすには、まず「訴状」を作成し、管轄の裁判所に提出する必要があります。訴状は、あなたの主張を裁判官に伝えるための最初の、そして最も重要な書類です。訴状には、民事訴訟法第134条に定められた、必ず記載しなければならない必要的記載事項があります。
- 当事者: 裁判に関わるあなたの氏名と住所、そして相手方の氏名と住所。
- 請求の趣旨: 相手方に対して、具体的に何を求めるかを明確に記載します。たとえば、「被告は、原告に対し、金〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。」といった形式で書きます。
- 請求の原因: なぜその請求をするのか、その理由を具体的に記載します。不倫慰謝料請求の場合、不倫の事実や内容、期間、それによってあなたが受けた精神的苦痛などを詳細に説明します。
そして、この請求の原因を裏付けるための「証拠」を合わせて提出することが極めて重要です。なぜなら、訴状に書かれた内容は、ただ主張しただけでは事実として認められないからです。証拠がなければ、裁判官はあなたの主張を信じる根拠を持てず、結果的に勝訴することはできないためです。
訴状を裁判所に提出すると、裁判所はまず形式的な要件を満たしているかを確認します。(民事訴訟法第137条)
問題がなければ、裁判所は相手方に訴状の副本を送達し、反論のための答弁書の提出を促します。同時に、第一回口頭弁論期日を指定し、あなたと相手方、双方に裁判所へ出頭するよう通知します。(民事訴訟法第138条、139条)
当事者の主張と証拠を整理しぶつけ合う
裁判では、当事者双方の主張と証拠を整理し、裁判官が事実を判断するための手続があります。この中心となるのが、口頭弁論期日と、その内容を深めるための弁論準備手続などです。
民事裁判は、原則として民事訴訟法第87条に定められた口頭弁論によって進行します。これは、公開された法廷で、当事者が交互に主張や反論を述べる手続きです。
しかし、一度の口頭弁論ですべての主張や証拠を整理することは困難です。
そこで、裁判官は当事者の意見を聞き、民事訴訟法第168条以下の規定に基づいて弁論準備手続に付すことがあります。この手続きは非公開で行われることが多く、当事者や代理人弁護士同士が裁判官の前で話し合い、慰謝料額を決定する上で重要な点を絞り込むことで、訴訟の争点を明確にします。
争点が明確になったら、その事実を証明するために証拠調べが行われます。当事者は、民事訴訟法第4章証拠以下の規定に基づき、自分の主張を裏付ける証拠を裁判所に申し出なければなりません。
例えば、当事者は民事訴訟法第180条に基づき、不倫の事実を立証できるような証拠を提出したり、証人尋問や当事者尋問を申し出て、立証活動を行うこととなります。なお、民事訴訟法第182条では「証人及び当事者本人の尋問は、できる限り、争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければならない。」と定められていることから、基本的には物証等の証拠の提出が先に行われます。
このように、口頭弁論期日、弁論準備手続、そして証拠調べを通じて、裁判官は不倫の事実を認定したり、それによって生じた精神的苦痛の程度を法的に評価することとなります。なお、証拠の評価は以下の記事にも詳しく解説しています。

最終的な司法判断が下される
そして、裁判官は、これらの手続きを通じて得られた客観的な証拠と当事者の主張を総合的に判断し、和解を促したり、最終的な判決を下したりします。
まずは、裁判上の和解についてです。裁判官は、民事訴訟法第89条に基づき、いつでも当事者に和解を勧めることができます。
和解が成立すると、その合意内容は和解調書に記載されます。この和解調書は、民事訴訟法第267条により、確定判決と同一の法的効力を持ちます。したがって、もし相手方が和解で合意した支払いを怠った場合、あなたは和解調書を債務名義として、相手の財産に対し強制執行を行うことが可能になります。つまり、裁判上の和解は単なる口約束ではなく、法的に強制力を持つ強力な解決手段であるのです。
次に、和解の話し合いがまとまらなかった場合、裁判は判決へと進みます。裁判官は、これまでの口頭弁論や証拠調べで得られた情報をすべて検討し、民事訴訟法第243条に基づいて終局判決を下します。判決には、原告の請求が正当であると認められた場合に出される認容判決と、原告の請求が認められなかった場合に出される棄却判決があります。
覚悟が必要?不倫慰謝料訴訟の負担とは?
裁判には時間がかかる
「裁判」と聞くと、すぐに決着がつくイメージがあるかもしれません。しかし、実際は数ヶ月から1年以上かかることも珍しくありません。なぜなら、裁判は何度も期日が設定され、そのたびに準備が必要になるからです。
ただし、相手が裁判に出廷しない欠席裁判であれば、通常よりも早く終わることがあります。実際、日本の民事裁判では、欠席裁判で終結するケースが少なくありません。令和3年度の司法統計によると、地方裁判所の通常訴訟事件のうち、終局まで至った事件の約35%が欠席裁判で終結しています。
しかし、不倫慰謝料請求訴訟では、相手も専門家(弁護士)を立てて反論することが多いため、欠席裁判になることはあまりないというのが印象です。そのため、口頭弁論や証拠調べなどを経る必要があり、長期化する傾向にあります。
費用負担も重要なポイント
また、費用負担も重要なポイントです。
裁判にかかる費用は、主に裁判所に納める費用と弁護士費用に分かれます。裁判所に納める費用(訴訟費用)は、原則として敗訴した側が負担します(民事訴訟法第61条)。つまり、あなたが勝訴すれば最終的に相手方に支払わせることが可能です。しかし、裁判を起こす段階では、まずあなたが立て替える必要があります。
また、弁護士費用については、裁判が長期化すれば出廷費用などがかさみます。最高裁判所昭和44年2月27日判決では、弁護士費用の一部を相手に負担させることを認めており、多くの判例はそれを踏襲しています。しかし、その全額が認められることは稀であるというのが現状です。したがって、最終的に一部はあなたの負担となることを覚悟しておきましょう。
弁護士費用や調査費用に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。

解決できないなら専門家へ!弁護士に依頼すべき理由
不倫慰謝料の裁判は、時間も費用もかかる長期戦になることが多いです。
しかし、弁護士を立てることで、これらの重い負担を軽減し、より良い解決を目指すことができます。
1. 精神的な負担を大きく軽減できる
不倫慰謝料の裁判は、時間も費用もかかる長期戦になることが多いです。裁判所への出廷、煩雑な書類作成、そして相手との直接的なやり取りは、あなたに大きな精神的ストレスを与えます。
しかし、弁護士に依頼すれば、これらの手続きのすべてを代行してもらえます。相手方との交渉から、裁判所への出廷、複雑な書類作成まで、全てを任せられるため、あなたはストレスから解放され、日常生活を立て直すことに集中できます。裁判という負担の重い手続きを、専門家という強力な味方とともに乗り越えられます。
2. 専門性の高い訴訟追行を任せられる
不倫慰謝料請求訴訟は、相手が弁護士を立てて反論してくることが多いため、欠席裁判になることは稀です。そのため、口頭弁論や証拠調べといった専門的な手続きを経る必要があり、これには高度な法的知識が求められます。
しかし、弁護士に依頼すれば、あなたは法律の知識がなくても大丈夫です。弁護士は、過去の裁判例や法律の専門知識に基づき、あなたのケースでどのくらいの慰謝料が適正かを正確に算定します。さらに、慰謝料額を増額するための証拠をどのように集め、裁判所に提示すればよいかを具体的にアドバイスし、技術性の高い訴訟活動を行ってくれます。
これにより、個人で示談交渉をしたり、裁判をするよりも、適正な、そしてより高い慰謝料額を獲得できる可能性が大きく高まるのです。
3. 裁判以外の解決策も提示してもらえる
裁判は、最終的な解決手段ではありますが、時間や費用、精神的な負担が伴います。実は、不倫問題は示談交渉の段階から弁護士に依頼するのが最も賢明です。
なぜなら、弁護士が代理人となることで、相手は「これは本気だ」と認識し、真剣に交渉に応じる可能性が高まります。その結果、裁判という手続きを経ることなく、示談という形でスムーズに解決できるケースも多いのです。
弁護士は、あなたの状況に応じて、裁判だけでなく、交渉や調停など、さまざまな解決策を提示し、あなたにとって最も良い道を探ってくれます。