企業法務

【ファクタリング事業者必見】架空債権取引のリスクと防止策を徹底解説

ファクタリングは、資金繰りに悩む多くの中小企業を助ける、心強い味方です。しかし、その取引に潜むリスクを十分に理解していますか?

不正な取引は、あなたの事業に大きな損失をもたらす可能性があります。

この記事では、ファクタリング事業者が特に注意すべき「架空債権」について、その手口から具体的な対策まで、わかりやすく解説していきます。

大切な事業を守るために、ぜひ最後までお読みください。

ファクタリングに潜む「架空債権リスク」とは

ファクタリングの架空債権とは何か?

架空債権とは、実在しない取引から生み出された、虚偽の請求書のことです。これは、ファクタリング会社を騙して資金を得ようとする詐欺行為に利用されます。具体的には、納品やサービスの提供といった商取引が全く行われていないにもかかわらず、あたかも売掛金が存在するかのように偽装したものです。

「なぜ、そんな簡単な嘘を見破れないのか?」と疑問に思うかもしれません。しかし、巧妙な手口はそう簡単には見抜けません。なぜなら、見た目には本物と区別がつかないよう、実在する会社の名前を使ったり、過去の取引情報を悪用したりするからです。

知っておくべき架空債権の典型的な手口

手口解説
実在しない取引取引先そのものが存在しない、または名義だけのペーパーカンパニーとの間で、架空の取引を作成する手口です。
取引自体が虚偽取引先は実在するものの、実際には商品の納品やサービスの提供といった取引が一切行われていないにもかかわらず、請求書を作成する手口です。
請求書の水増し実際に発生した取引の金額を偽り、より高額な請求書を作成する手口です。
二重請求すでに債務者から支払いが完了している債権、または別のファクタリング会社に売却済みの債権を、あたかも未回収であるかのように偽って売却する手口です。
架空請求まだ納品していない商品や、提供していないサービスについて、将来発生する予定の債権であるかのように装い、請求書を作成する手口です。

ファクタリング詐欺に用いられる架空債権の手口は、巧妙で複雑です。上記は、典型的な手法をまとめたものです。これらの手口は、それぞれ単独で使われることもあれば、組み合わせて利用されることもあります。

例えば、「実在しない取引」の手口では、レンタルオフィスなどを利用して偽の住所を記載したり、実在する企業の名前を勝手に使ったりします。ファクタリング会社が売掛先に確認の連絡を試みても、電話がつながらない、住所が存在しないといった事態が起きて、詐欺が発覚します。

次に「取引自体が虚偽」の手口では、詐欺を働く側は、ファクタリング会社が売掛先に連絡しない「2者間ファクタリング」の仕組みを悪用することが多いです。また、「二重請求」の手口では、ファクタリング会社が債務者に請求しても、「すでに支払い済み」と回答されるため、資金回収が不可能になります。過去には、すでに別のファクタリング会社に債権を売却していた事例も確認されており、悪質なケースでは詐欺罪に問われることもあります。

さらに、「請求書の水増し」は、100万円の取引だったものを500万円の請求書に書き換えてファクタリング会社に提出するといった手口です。この場合、ファクタリング会社は実際の債権額を超える金額を買い取ってしまうリスクがあります。

最後に、「架空請求」の手口では、契約書や注文書を偽造することで、取引がすでに完了したように見せかけるため、取引の期間や進捗を慎重に確認することが不正を見破る鍵となります。

架空債権売買はファクタリング業者に損害を与える

ファクタリングにおける架空債権の売買で問題になった詐欺事件は、実際にニュースでたびたび報道されています。これらの事例は、ファクタリング事業者が多額の損失を被る現実を物語っています。

2020年12月、警視庁は、イベント企画会社「INI」の代表を詐欺容疑で逮捕しました。この容疑者は、実在しない売掛債権をファクタリング業者に売却し、約3億4600万円をだまし取ったとされています。売却した架空債権は100件を超え、総額は約45億円に上りました。この巧妙な手口として、大手企業との取引を装い、問い合わせ用の偽のメールアドレスを用意。あたかも取引が実在するかのように、ファクタリング会社とやりとりをしていたと報じられています。(朝日新聞デジタル「架空債権で3億円詐取容疑 イベント企画会社代表逮捕」(2020年12月4日付))

2022年3月には、情報セキュリティー会社の元社長が詐欺容疑で逮捕された事例も報じられました。この容疑者は、架空の売掛債権をファクタリング業者に持ちかけ、約1億円をだまし取った疑いが持たれています。この事例も、実在するIT関連会社2社との架空取引を偽装する手口が用いられていました。(朝日新聞デジタル「架空の債権売却持ちかけ、ファクタリング業者から1億円詐取した疑い」(2022年3月2日付))

これらの報道から、詐欺の手口が単なる書類の偽造にとどまらず、大手企業を騙るなど、より巧妙化していることがわかります。ファクタリング事業者は、見た目の信用度だけでなく、取引の実態を徹底的に確認する姿勢が不可欠です。

架空債権を見抜くチェックポイント

ファクタリング事業を営む皆様は、日々、資金を求める多くの企業と向き合っていることでしょう。しかし、その中には、悪意を持った第三者が潜んでいる可能性があることを忘れてはなりません。

架空債権というリスクは、あなたの事業に致命的な打撃を与えかねません。だからこそ、契約前の厳格な審査が何よりも重要になるのです。

ここでは、あなたの事業を不正から守るために、特に重要な4つのチェックポイントについて、具体的な方法とともに詳しく解説していきます。

チェックポイント確認すべき内容
取引先の実在確認法人番号や登記簿の確認、電話番号・住所が実在するかを調査します。
過去取引の裏付け請求書・納品書・入金履歴の突合、取引の継続性や金額の妥当性を検証します。
書類の整合性契約書、請求書、押印や日付の真偽、データ改ざんや不自然な形式の有無を検証します。
与信調査の徹底信用調査会社のデータ確認、業界相場との比較による異常値の発見を行います。

1. 取引先の実在確認を徹底する

架空債権詐欺の最初の兆候は、取引先(債務者)そのものが存在しないというケースです。詐欺師は、架空の会社や名義だけのペーパーカンパニーを作り、あたかも実在するかのように装います。しかし、国税庁「法人番号公表サイト」や法務省「登記情報提供サービス」: を活用すれば、この嘘を見抜くことができる可能性があり得ます。

具体的には、まず法人番号登記簿謄本を必ず確認してください。もし検索してもヒットしない場合や、設立以来変化がほとんどないような場合は、その取引先が実在しない可能性もあり得るでしょう。

さらに、法務省が提供する登記情報提供サービスなどを利用して、会社の設立日役員情報本社所在地などを調べることも重要となります。これらの公的な情報が、偽の取引先を見抜く最も信頼性の高いエビデンスになります。

次に、請求書などに記載されている電話番号住所が、本当にその会社のものであるかを検証します。電話番号に何度かかけてみて、本当に担当者につながるか、会社の名前を名乗るかを確認してください。

レンタルオフィスやバーチャルオフィスが住所として使われている場合も、注意が必要です。こうした住所は、実態のない事業者がよく利用するからです。また、インターネット上の情報も参考にしましょう。会社のウェブサイトや、口コミサイト、Googleマップなどで、事業活動の実態があるかを探ることも有効です。

こうした地道な作業が、あなたを大きなリスクから守ります。少しでも不審な点があれば、絶対に取引を進めてはいけません。

2. 過去の取引履歴を裏付ける

提出された請求書が、本当に取引から発生したものなのかを検証することは極めて重要です。なぜなら、ファクタリング事業者を騙そうとする詐欺師は、架空の取引を何度も繰り返すことで信用させようとするからです。この手口は、「過去の取引の裏付け」を求めることで見抜ける可能性が高まります。

日本ファクタリング業協会のような業界団体も、不正取引の防止策として、取引履歴の検証を強く推奨しています。日本貸金業協会「インターネット取引サービスにおける不正取引等防止に関するガイドライン

具体的には、ファクタリングを申し込んできた企業に、過去の請求書納品書、そしてそれらに対する入金履歴を提出してもらい、それぞれを突合してください。請求書に記載された金額や日付と、銀行の入金明細に記載された金額や日付が一致するかを細かく確認するのです。

さらに、取引の継続性金額の妥当性も検証しましょう。例えば、普段は数十万円の取引しかないにもかかわらず、急に数百万円の高額な請求書が提出された場合は、大きな違和感を覚えるべきです。もし、提出された書類が不自然であったり、提出を渋られたりした場合は、不正の可能性を考慮するべきでしょう。

3. 書類に不審な点がないか確認する

架空債権詐欺を見抜くためには、取引の「中身」だけでなく、提出された書類そのものを精査することも重要です。疑わしい点を見逃さない鋭い目を持つことが、あなたを守る鍵となります。

まず、契約書請求書押印日付の真偽を一つひとつ確認してください。例えば、書面のフォントレイアウトに不自然な点はないでしょうか?会社名や住所が微妙に間違っていたり、一般的な書式から大きく外れていたりする場合は、偽造された書類である可能性を疑う必要があります。

また、会社の角印や代表者印がかすれていたり、逆に鮮明すぎたりするなど、不審な点がないかを確認してください。さらに、日付の記載にも注意を払いましょう。提出された複数の書類の日付に一貫性がない、あるいは特定の期間に集中して不自然な数の取引が発生している場合は、慎重な調査が必要です。

デジタルデータの改ざんがないかを検証することも重要です。近年では、PDFファイルなどを簡単に編集できるソフトウェアが普及しています。そのため、提出されたデータが本当に原本であるかを確認することが大切です。可能であれば、紙媒体の原本を提出してもらう、あるいは原本の写真を撮ってもらうなど、改ざんが難しい方法で書類を提示してもらうことを検討してください。

4. 徹底した与信調査を行う

ファクタリング取引は、債権を買い取るという性質上、持ち込んだ事業者の信用力を正確に把握することが欠かせません。架空債権を持ち込む事業者は、すでに経営に行き詰まっていたり、信用力が低く借り入れが出来ないため、架空債権のファクタリングに手を染めるケースが多いためです。与信調査を徹底することで、こうしたリスクを未然に防ぐことができます。

可能なら、信用調査会社のデータを活用してください。帝国データバンク東京商工リサーチといった信用調査会社は、企業の財務状況や代表者の経歴、過去の取引実績など、詳細なデータを保有しています。これらのデータを参照すれば、表面的な情報だけでは分からない、本質的な信用力を把握できる可能性が高まります。

次に、業界の相場と照らし合わせることも重要です。ファクタリングを申し込んできた企業の取引内容や手数料が、業界の相場と比較して異常な値ではないかを確認しましょう。例えば、通常よりも極端に低い手数料を提示された場合、それは「何かを隠している」サインかもしれません。また、特定の業界に特化したファクタリング業者であれば、その業界特有の商習慣やリスクを理解しているため、与信調査の精度が高まります。

これらの情報を総合的に判断し、少しでも不審な点があれば、安易な取引は避けるべきです。

ファクタリングにおける不正防止策

ファクタリング事業者が架空債権による被害を未然に防ぐためには、単一の対策ではなく、複数のステップを組み合わせた総合的なリスク管理体制を構築することが非常に重要です。

与信管理の強化

ファクタリング取引は、債権を買い取るという性質上、取引先の信用力がそのまま事業者のリスクとなります。そのため、与信管理を徹底することが、不正防止の第一歩です。

初めての取引先に対しては、いきなり大きな金額のファクタリングを行うのではなく、まずは少額に制限することが賢明です。これにより、万が一不正が発覚した場合でも、被害を最小限に抑えることができます。

また、取引が継続している場合でも、定期的に信用調査会社のデータを参照するなど、定期的な信用調査を怠らないようにしましょう。取引金額が急に増加したり、取引内容に不自然な変更があったりした場合は、特に慎重な調査が必要です。

書類審査フローの標準化

架空債権の多くは、偽造された請求書や契約書を用いています。したがって、これらの書類審査フローを標準化することで、人為的なミスや見逃しを防ぐことができます。デジタルデータとして提出された書類だけでなく、原本を郵送してもらうなどして、デジタルと紙の突合チェックを必ず行ってください。

原本に記載されている印鑑や筆跡、紙質などを確認することで、デジタルデータだけでは見抜けない偽造を見破れることがあります。このプロセスは手間がかかるかもしれませんが、信頼性の高い取引を確保するためには不可欠な作業です。

債権回収フローの徹底

ファクタリング契約が成立した後も、油断はできません。特に、債権譲渡通知を確実に実施することが、二重譲渡や架空債権のリスクを減らす上で非常に有効です。

債務者に債権がファクタリング会社に譲渡されたことを正式に通知すれば、債務者はファクタリング会社に対して直接支払いを行うことになります。このプロセスは、債権の存在を債務者自身に確認させる効果もあります。

さらに、入金日や金額を継続的にモニタリングすることで、不審な入金遅延や金額の不一致がないかを早期に発見することができます。

契約条項によるリスク回避

契約書に不正防止のための条項を盛り込むことも重要です。例えば、表明保証条項に「譲渡する債権が実在し、真実であること」を明確に記載してください。

これにより、もし債権に虚偽があった場合は、契約不履行となり、法的な責任を追及する根拠になります。

さらに、不実表示があった場合の解除・損害賠償条項を設けておくことで、万が一の被害発生時にも迅速に契約を解除し、賠償を請求できる体制を整えることができます。


架空債権のファクタリングによる不正発覚後の法的対応

どれほど厳重な審査を行っても、巧妙な詐欺手口によって不正な取引が発生してしまう可能性はゼロではありません。しかし、万が一、架空債権による被害が発覚してしまった場合でも、迅速かつ適切な法的対応を取ることで、損害を最小限に抑えることが可能です。

ここでは、ファクタリング事業者が不正発覚後に取るべき法的措置について、具体的に解説します。

民事上の対応:損害賠償請求

    不正な取引によって生じた金銭的な損害を回復するためには、損害賠償請求が最も基本的な手段となります。ファクタリング会社は、架空債権を譲渡した相手に対して、契約上の義務を果たさなかったこと(債務不履行)や、故意に虚偽の情報を提供したこと(不法行為)を根拠に、損害の賠償を求めることができます。

    損害賠償請求を行う際には、被害額の明確な算定が重要です。具体的には、ファクタリングで支払った金額、法的手続きにかかった費用、事務手数料などが含まれます。この請求は、内容証明郵便の送付から始まり、話し合いで解決しない場合は、最終的に訴訟へと進むことになります。

    刑事上の対応:詐欺罪・業務妨害罪の追及

      架空債権の譲渡は、ファクタリング会社を欺いて金銭を交付させる行為であり、刑法上の詐欺罪に該当します。このため、ファクタリング事業者は、警察に被害届を提出し、加害者の刑事責任を追及することができます。また、不正行為によって会社の業務が妨げられた場合は、業務妨害罪として告訴することも検討できます。

      刑事告訴を行うことによって、加害者に対する捜査が開始され、逮捕や起訴につながる可能性があります。これにより、加害者にプレッシャーをかけ、示談交渉を有利に進められることもあります。警視庁や警察庁のウェブサイトでも、こうした詐欺被害に関する情報提供や相談窓口が案内されています。

      契約上の対応:契約解除と代金返還請求

        ファクタリング契約書には、架空債権の譲渡など、契約内容に虚偽があった場合の対処法を定めておくことが非常に重要です。事前に表明保証条項や契約解除条項を明確に記載しておくことで、不正が発覚した場合に、その契約を直ちに解除し、支払った代金の返還を求めることができます。

        この条項は、法的な手続きをスムーズに進めるための根拠となり、迅速な代金回収を可能にします。契約書にこれらの条項がなければ、民法上の一般原則に基づいて法的主張を行う必要があり、手続きが複雑化する可能性があります。そのため、契約書は弁護士と連携して、不正取引のリスクに備えた内容にしておくことが不可欠です。

        専門家との連携:被害最小化の鍵

          架空債権詐欺は、法的な知識を要する複雑な問題です。したがって、不正が発覚した際には、ファクタリングや企業法務に詳しい専門の弁護士と連携することが最も賢明な選択です。弁護士と事前に協議し、対応フローを整備しておけば、万が一の事態にも冷静かつ迅速に対処できます。

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